「小児科キャリアをもっと知りたい!」という熱い思いを胸に、全国の小児科医の先生方にインタビューさせていただきます!様々な現場で活躍される先生方の声を通して、小児科を志す私たちのこれからを考えるヒントにできればと思います。
今回インタビューさせていただくのは、Lincoln Medical & Mental Health Center・坂井直哉先生です。
大学時代の研究実習をきっかけに、キャリア早期から海外で臨床医をするという大きな決断をされた坂井先生。アメリカで小児科レジデントとして勤務されるまでの道のりと今後のビジョンについて伺いました!
これまでのご経歴について
Q. 医学部や小児科を目指したきっかけは何ですか?
高校生の頃は特にやりたいことがなかったのですが、それでも自分が熱中できることを職にしたいとぼんやり考えていました。医師免許を持っていればある程度の生活は担保されると知っていたので、この医師免許という“保険”を持ちながら自分の好きなことに挑戦したいと思ったのが医学部に入ったきっかけです。
大学入学後は小児科を自然と目指すようになりました。特に明確なきっかけはないのですが、今後の未来が不確定な子どもたちのために働きたいと漠然と思っていました。
大学生の頃、東南アジアを旅行をする事が多かったのですが、そんな旅行中に出会う子どもたちの中には、14,15 歳と自分より年下にも関わらず、生活のために向上心を持ち必死に働き・学ぶ子どもたちがいました。ぬくぬくと温室育ちでダラダラ生活していた自分にとっては襟を正さねばという気持ちとなったのを覚えています。同時に、そんな彼らのような子が健康上の理由で困っている時に助けてあげられるような小児科医になりたい、と目標が定まっていきました。
Q. 他の科とは迷わなかったですか?
もちろん迷いました。学生や研修医の頃は様々な科をローテーションする度に、その科が魅力的に見えました。しかし、自分はずっと子どもを相手に働いていきたいという思いは変わらず、そして現実的な事を考えてもやはり小児科が一番だと思っていました。
というのも、例えば外科系の科であれば、将来目が見えなくなったり、事故にあって手が使えなくなったりしてしまうと外科医としての仕事を続けるのが難しくなるのでは、という不安がありました。なので、長期的なライフワークとして考えた場合も自分は小児科が一番だと思いました。
Q. 海外でのキャリアはいつ頃から考えていましたか?
アメリカでのキャリアについては何となく「海外で働いてみたい」「発展途上国などの医療リソースが少ない環境で生活する子どもたちを相手にしたい」という思いから始まりました。
大学3年生の頃、国際保健学教室にお世話になりマレーシアに行き、また、そのご縁で4年生の時にはミャンマーを訪れる機会がありました。現地の病院を訪れて医療の現状を知り、自分は医師としていわゆる途上国の子供を相手に小児科として働きつつ、かつ、患者個人だけでなく地域全体にアプローチできるような国際保健の分野でも働きたいという思いを抱くようになりました。
また、ミャンマーで出会った鎌田一宏先生(現 福島県立医科大学 医学部 総合内科・総合診療医センター 副センター長/会津医療センター 総合内科 主任教授)が自分のキャリアに大きく影響を与えてくださったと思います。日本・海外の両方において臨床経験が豊富で、日本で出会う先生方とは全く違う自分だけのキャリアを歩んでおられる先生です。話してくださる話全てが新鮮で面白くて夢があり、この出会いが自分の未来が大きく開けるきっかけとなりました。この頃から海外で臨床医をすることを本格的に考えるようになりました。
Q. 海外で働くとしても、医師キャリア序盤から行くというのはあまり一般的ではないと思うのですが、なぜそういった選択をされたのでしょうか?
仰る通り、日本である程度のキャリアを積んでから海外で挑戦するというものが主流ですし、私の中にも選択肢としてはありました。ですが、日本でも海外でも医学という学問の内容は同じだと思ったのと、日本で生まれ育った私にとっては早く海外に出て英語を学び、様々な文化やバックグラウンドを持つ人達に接することが必要だと思っていました。
ある程度キャリアを積んでからでは遅いのでは…という不安もありました。なので、研修医を終えた後はアメリカで小児科を学ぶという選択をしました。
Q. 医学部という閉鎖的な空間では、周りと異なる道を進むというのはなかなか勇気のいる決断だったと思います。それに対して不安はなかったですか?
本当にその通りで、医学部ではみんなと同じようにすることが必要だと思われがちです。それこそ国家試験や定期テストも、周りと同じように勉強していれば大丈夫、逆に周りと違うことをしていると落ちるとよく言われます。
私はミャンマーから帰国し本格的に将来海外で働きたいと考え始めた時に、試しに英語で医学を勉強するということを始めました。そしてすぐ6年生の実習をミャンマーで行う事を決め、その実習を成功させることを勉強の目標として定めました。
医学部高学年の勉強は国家試験対策としてみんなと同じくビデオ講座を見て勉強します。が、私は英語版のビデオ講座を見つけそれを使って勉強を始めました。周りと違うことをやってるから国家試験に落ちるかもしれないという不安はあったのですが、日本の国家試験の模試を受けてみると平均的な偏差値が出るし、勉強という面で少し道を外れたことをしていても大丈夫だと感じるようになりました。残念ながらコロナの影響でミャンマーの実習は実現しませんでしたが、国家試験に合格し結果的にはUSMLEに合格することにもつながりました。この経験が小さな成功体験となり、周りと違うことに挑戦しても大丈夫だという自信になったと思います。
Q. 私の友人にもUSMLEの受験を考えて猛勉強している子がいますが、元々の勉強のレベルが高くないと難しいような気がします。
みんな始める前にはそう思うんですよ。先ほどの話にもあった通り、私の場合は最初からUSMLE合格が目標だったわけではなく、どうせ将来海外で働くならいっそのこと英語で勉強してしまいたかったんです。コロナでミャンマーでの実習の中止が決まってUSMLEの勉強に手を出してみると、英単語や医療英語はなんとなく頭の中に入っていたので、比較的スムーズに勉強が進みました。もちろん内容は難しいし時間はかかりますが、試験自体は勉強を続ければ合格できるような試験だと思います。(高得点を取るとなると話は別です。)
Q. 英語で勉強する事において科によっての難しさの差はあるのでしょうか?
特に変わらないような気がします。ただ、実際に働くという意味では、内科・小児科のようなコミュニケーションが重要になってくる科では、最低限身につけなければいけない英語のレベルは他と比べて高いのかもしれません。対して、外科系の科は、オペ中やチーム内での会話で使う単語はある程度限られて来ると思うので、むしろスキルの方が大事なのでは、と思います(想像ですが)。小児科における英語が特別難しいということは無いとは思いますが、当然必要なスキルとして求められます。
現在のお仕事について
Q. 現在の勤務スケジュールを教えてください。
私は現在、Lincoln Medical & Mental Health Centerというニューヨークにある市立病院のレジデント1年目として働いています。小児科は科の中でローテーションがあり、病棟や新生児などいろいろと分かれていてどこをローテーションしているかによってスケジュールもかなりばらばらです。
例えば病棟ローテーションの場合、
6:00 プレ回診
7:00 サインアウト(夜勤帯からの引継ぎ)
8:00 カンファレンス(レクチャー、入院症例についてのディスカッション)
9:00 回診、カルテ記入、オーダー
12:00 カンファレンス
午後 カルテ記入、オーダー、入院対応
17:00 サインアウト(夜勤帯への引継ぎ)
といった1日になります。
これが外来ローテーションだと8:00~17:00、新生児ローテーションだと7:00~17:00になります。これに加えて、オンコール(当直)が月に2~8回ほどあります。
Q. アメリカのレジデントはどういった仕事を任されるのでしょうか?
アメリカのレジデントは日本における後期研修医にあたります。カルテの記載やオーダーから手技までシニアレジデントとアテンディングの先生の監督下で行います。アメリカの場合は大学卒業後にそのままレジデントになりますが、その後フェローシップというサブスペシャリティ*を学ぶプログラムがあります。これは病院によってはプログラムが存在しない病院もあり、私がいる病院もフェローがいないので、アテンディングと呼ばれる指導医の先生から直接指導を受けながら仕事をします。フェローがいるプログラムだと、フェローからも指導があったり任される業務に幅があったりなかったりするのではないでしょうか。
*各診療科の下に連なる細かな専門分野
Q. アメリカと日本の病院や研修制度に違いは感じますか?
私は初期研修を沖縄県立南部医療センター・こども医療センターで行い、その後半年ほど埼玉医科大学総合医療センターの小児科とPICUで研修を積みました。その2つと今の病院を比べると、アメリカの方がレクチャーや一つ一つの患者症例に対しての指導の時間が圧倒的に多いと感じます。あとは、労働時間がかなり守られていて、例えばレジデントであれば週80時間以上の労働をしてはいけないというように、スケジュールを超えた残業は基本的にありません。他にも、日本ではサブスペシャリティをもつ先生が少ないと感じましたが、アメリカはその数は多いと思います。
Q. 先生が熱心に勉強したいと思っているサブスペシャルティは何ですか?
私はずっと小児救急をやりたいと思っています。なので、レジデントが終わってフェローシップに進むならば、小児救急やPICUを学びたいです。また、国際保健の勉強もしたいです。
Q. 現在、アメリカでの臨床と並行して、アフリカでの医療支援活動も行っていると伺いました。具体的にどのような活動をされていますか?
Global Medcare Africa (GMC) の代表としてタンザニアで活動を行っています。日本の医療従事者・学生に対して、低リソース地域での医療について勉強・経験をする機会を提供しています。GMCの目的は2つあって、1つは日本人医療従事者のキャリア支援、もう一つは現地の医療支援です。病院での実習やアウトリーチ活動を通して日本の医療系学生・医療従事者と現地の医療従事者との知識やスキルの共有・相互学習を行いながら現地の患者への支援を行っています。興味がある方はぜひタンザニアにいらしてください!
Global Medcare Africa についての詳細は instagram @globalmedcare_africa や公式ライン @872gmimb をご覧ください!


Q. 私も国境なき医師団に憧れて医師を目指したので、そういった活動にとても興味があります。実際にタンザニアで活動する中で課題に感じたことはありますか?
医療従事者同士で仕事をする時の難しさの一つはスピード感の違いです。日本だと何事もテキパキ素早く、正確さを大事にすると思いますが、現地ではポレポレといって「何があってもゆっくりで大丈夫」のような感覚があります。働くことに対する意識も人によって違うので、例えば何事にもルーズな人もいる中で、お互いにストレスを与えず、受けすぎずに仕事をするのは大変だと感じます。
あとは、医療は患者の協力ありきなのですが、しっかり教育を受けている人の方が少ないので、医療従事者のお願いどおりにやってもらえないという難しさもあります。
私たち日本人は多くが高校まで行っていて、世界的に見ると当たり前のレベルがすごく高いことを実感します。一方で、私たちが対するのはリテラシーが低い人たちが多く、病気や薬の説明をしても理解できなくて治療の必要性を理解できずドロップアウトするというのがよくあります。
Q. 特に医師や医学生は普段求められる当たり前も高く、向こうの常識を理解するというのは難しいと思います。海外で働きたいと考える若者に対してアドバイスはありますか?
医学部は閉鎖的な空間なので、自分から外に出なければいけないと思います。私自身もいろんなバイトをしたり旅行に行ったり色んな人と接したり…興味本位ではありましたが、その経験があったからこそ理解できないような状況があった時に想像力を働かせる癖がつきました。自分の理解できないようなことがあった時に、ただ「やばいね」と片付けるだけではなく、「なぜこうなったんだろうか?」とその背景にある問題にまで想像力をふくらませることができれば、相手のことを少しでも理解できたり、また、根底にある問題にアプローチが出来たりするようになるのではと思います。
先生の未来について
⭐️「子ども好き」で小児科医になっていいの?という問いを持つ学生へのメッセージをお願いします。
私も確かに子どもが好きですが、それが大元となって小児科医になったわけではないです。そんな私から送るメッセージとしては、「すごくいいと思いますし、ぜひやってほしい」の一言に付きます。好きだからこそ感情移入をしてしまって、辛くなって辞めていく人もいますが、それ以上に小児科をやっていて良かったなと感じることがあると思います。
Q. 先生が小児科をやっていて良かったと思う瞬間はどのような時ですか?
救急にいると喘息などで苦しそうな子どもたちをよく診るのですが、その多くは入院して数日でスパっと良くなるんです。PICUでも麻酔下で喉からチューブが入っているような重症の子が治療が終われば元気になって帰っていく患者もいます。そういった姿を見た時はとても嬉しかったです。
⭐️医師として人生をかけて作ったものや作りたいものを教えてください。
私はまだレジデントという立場なので、アメリカでのフェローシップに進み専門性を深めたいです。小児救急医として臨床で活躍しつつ、国際保健の分野でも途上国に対するアプローチをしたいと思います。その先のゴールとして、日本やアメリカのような医療資源の多い国にいれば防げたはずの死、いわゆるpreventable disease/death に対して少しでもインパクトを与えられたらと思います。生まれた環境によって死亡率が変わるのはすごく悲しいことだと思うので、国際保健を通して貢献するというのが大きな目標です。
編集後記
周りの人と異なる選択をすることは大きな挑戦であったと思いますが、興味と信念に沿って真っすぐに夢を追いかけてこられた様子がとても印象的でした。私自身も残り少ない学生期間の中で、幅広い経験を積んでいきたいと思います。
ありがとうございました!
