「小児科キャリアをもっと知りたい!」という熱い思いを胸に、全国の小児科医にインタビューさせていただきます!
様々な現場で活躍される先生方の声を通して、小児科を志す私たちのこれからを考えるヒントにできればと思います。

今回インタビューさせていただくのは、
国立精神・神経医療センターで勤務されている小林揚子先生です。

学生時代に小児神経学に惹かれて以来、臨床に、研究に、全力を注がれてきました。プライベートでは2児の母でもあり、家庭と仕事を両立されている先生に、日々を前向きに生きるモチベーションについて伺いました。

これまでのご経歴について

Q.小児科医を目指したきっかけは何ですか?

A.最初に小児科に興味を持ったのは、医学部を目指した高校生の頃でした。子どもが好きで、「子どものために何かしたい」と漠然と思っていた時に、とある医学部のオープンキャンパスに行きました。小児科の教授が「医師に必要な素質は何ですか?」という問いに対して、「小児科医に必要なのは子どもが好きという気持ちだけで、医師としては人が好きであれば十分だ」と回答されたのがすごく印象に残っていて、私も「小児科医に興味をもっていいんだ」と医師を志すようになりました。

大学入学後もその気持ちは変わらなかったのですが、小児科とは別に神経の研究をする機会がたまたまあり、神経分野の奥深さに気づくことになります。大学3, 4年頃には成人の脳神経学に気持ちが向きかけていたのですが、その時にこどもどこ(小児科医志望の学生が集まる勉強会 https://sites.google.com/view/kodomodoko)代表を先輩から引き継ぐ機会に恵まれました。活動の中でHAPPY(こどもの病歴と身体診察を学ぶワークショップ https://kodomonomikata.org/#happy)主催者の児玉和彦先生(こだま小児科) や笠井正志先生(兵庫県立こども病院)などパッションを持って活躍されている先生方に出会い、小児科診療や研究、教育に対する熱い想いに感化され、やっぱり小児科にしようと決めました。

医学生時代のこどもどこの活動を通じて、たくさんの小児科の先生に出会い、ロールモデルや小児科の魅力と出会いました。
医学生時代のこどもどこの活動を通じて、たくさんの小児科の先生に出会い、
ロールモデルや小児科の魅力と出会いました。

Q. 少し気持ちが傾く期間はありつつも、小児科志望一本で進まれてきたんですね。研究に関しても最初からご興味があられたのですか?

私が関心を持つ分野は臨床研究なので、いわゆる研究といって想像される基礎研究とは少し異なります。自分が臨床現場で感じた課題や疑問をResearch Questionとして研究に落とし込んでいる感じです。
現在、最も興味があるのは小児のてんかんで、てんかん患者さんの発達や正しい診断・迅速な治療に対して課題を感じ、深堀りをしています。また、移行期医療についても診療の中で、より改善できると感じ、研究を進めています。

Q. これまで多くのご決断をされてきた中で、特に印象に残っている出会いはありますか?

てんかんに興味を持ち始めた大学6年生の頃に行った、アメリカの臨床実習での出会いです。
てんかん発作を起こして救急外来にやってきた8歳くらいの男の子だったのですが、診察を担当した先生が彼に対し「てんかんというのは、頭の中のコンピューターのどこかがうまく働かなくて手足が勝手に動いてしまう病気なんだよ。僕たちの仕事は、てんかんがあっても将来の夢が制限されないようにサポートする仕事だよ。」と説明していました。この場面が、今でも鳥肌が立つくらい素敵で「私がやりたいのはこれだ!こどもを一人前に扱い、病気があっても制限なくイキイキと成長していくのをサポートしたい!」と決意するきっかけになりました。

ボストン小児病院での臨床実習にて。小児てんかん科医のキャリアを目指す原点になりました。
ボストン小児病院での臨床実習にて。小児てんかん科医のキャリアを目指す原点になりました。

Q. てんかんというのは子どもにとって珍しくないものの、説明や理解が難しいというのは医学生の私でも感じます。海外で実習をしたことで、先生の中で何か変化が生まれたことはありますか?

実はその前に、3年生でも半年間アメリカ・ボストンで基礎研究をする機会がありました。はじめに驚いたのは、先生方の勤勉さです。世界のトップランナーたちがたくさん働き、論文を書いていたのが、自分が当時持っていたイメージと違って印象的でした。
同時に、自分の成果を海外に発信をするためには、やはり英語力が必要だと実感しました。日本に帰ってきてからも、小さな世界にこもっているのではなく、海外とつながっていたいと常に思っています。
昨年のてんかん学会でも英語で発表をし、English session Awardをいただくことができました。

日本てんかん学会でBest English session awardを受賞しました
日本てんかん学会でBest English session awardを受賞しました

Q. 大学時代でのご経験をふまえ、研修先は何を意識して選ばれましたか?

初期研修は医者のスタートなので、小児科をがっつりというよりかは、患者さんとの向き合い方や医師としての考え方を学べる時間が欲しくて亀田総合病院を選びました。
後期研修は、国立成育医療研究センターで行いました。こども病院はとにかく可愛くて、ワクワクするような場所だったのでいつかは働いてみたいと思っていたので、今だと思い就職しました。
現在働いている国立精神・神経医療研究センターは神経学のメッカのような存在で、全国的にも限られたてんかんの手術を行っていること、大学時代のメンターの先生がいらっしゃったことなどが決め手となりました。
キャリアの岐路に迷った時は心の”ワクワク”を最終的な決め手にしています。

現在の職場、国立精神神経医療研究センター病院 脳神経小児科。全国から小児神経を学びにくる若手と切磋琢磨して働いています。
現在の職場、国立精神神経医療研究センター病院 脳神経小児科。
全国から小児神経を学びにくる若手と切磋琢磨して働いています。

Q. ワクワクするというお言葉が素敵です。私は「子どもが好き」を始まりとして、小児科と産婦人科どちらにも興味があるのですが、小児科ならではの“ワクワク”はどのような場面で感じますか?

小児科の一番贅沢なところは、子どもが成長していく姿を見守れるという点です。「最初に出会ったときはあんなに小さかったのにこんなに大きくなって」と親のような気持ちになったり、将来の夢の話を一緒にできることは小児科にしかない魅力なのかなと感じます。

現在のお仕事について

Q.先生の1日・1週間のスケジュールを教えてください。

当院は神経を専門とする少し特殊な病院なので、当直や救急の忙しさはあまりありません。

1日でいうと、

8:30 出勤
日中 病棟業務、合間に外来や研究を進める
17:00 退勤、子どものお迎えに行き帰宅
21:00 子どもの寝かしつけ後、自宅でできる研究や勉強をする

といった生活を月から金まで行っています。

土日はたまに当直があったりしますが、基本的にはお休みをいただけて、家族と過ごす時間をとっています。
現在、3歳と0歳2ヶ月の2人の子どもを育てているので、育休も取得しています。

Q. 仕事とプライベートの両立をしっかりされている印象を受けるのですが、小児科全体や先生の職場は子育てに寛容なのでしょうか?

だいぶ寛容になってきたと思います。
私のフェロー*という立場は今でこそ3,4年残る人が増えましたが、昔は国内留学のように2年だけ勉強しに来て、終われば元いたところに帰るのが主流でした。その限られた時間の中で子どもを産んで育てる女性は少なかったですが、今は少しずつ変わってきていて、同僚の助けも借りながら仕事と子育てを両立できています。私の職場では約半数が女性なので、決して珍しいことではないですね。
*小児科専門医を取得した、6年目以降のさらに専門研修を積んでいる医師

Q. 両立の中で、先生が特に意識されていることは何ですか?

一言で「割り切る」ですね。仕事と家庭の割合は人によって様々だと思いますが、私は半々の割合が理想で、どちらも大切にしたいと考えています。人生をどのように生きたいか、自分らしい自分軸が定まっていると他人と比べることなくポジティブにいられるのかなと思います。あとは同僚や夫にも頼りながら頑張っています。

Q. 私も先生と同じく、臨床・研究・子育てを将来の夢として描いているのですが、そんな学生に対してアドバイスはありますか?

私がこれまで読んできた本で、一つその通りだなと感じたのが「産休・育休に入る直前までキャリアのアクセルを緩めることなく進み続けた方が復帰後のキャリアが進みやすい」というものでした。私も早くから専門的な研修をスタートし、臨床と並行して卒後3年目から大学院にも通い、とかなり早めに終わらせていたのは良かったと思います。
私にとってのロールモデルである先生も、私が妊活を始める頃進路に悩んでいたときに「子どもを産んでから、より大変な環境を選ぶなんてできないから、とりあえず先に行ってから考えなさい。産んでみて無理だと思ったら辞めればいい」とおっしゃっていて、私もそれに後押しされました。常に逃げ道はあると今でも思っていて、やりたいことがあるうちに走りだしちゃう、本当に色々な両立が無理と思うまでは進み続ければいいと思います。
その時々の状況に合わせて、試行錯誤しながらうまいバランスを見つけていってみてください!

2児の母としても日々ワークライフバランスを模索しながら、こどもに胸を張れる母親でいたいなと頑張っています。
2児の母としても日々ワークライフバランスを模索しながら、
こどもに胸を張れる母親でいたいなと頑張っています。

Q. 飛び込んでみて考えるというのは勇気がいりそうですが、素敵な考え方だなと思います。
お仕事の話に戻りますが、現在の小児神経の領域で課題だと感じられるポイントはありますか?

小児神経というと昔は診断も治療もかなり難しい分野だったのですが、最近は遺伝子検査などにより診断がつけやすくなったり、治療薬が開発されたりと治せる病気が増えてきています。一方で、より長く生きられるようになるということは、どのように病気と付き合っていくかという移行の話につながるので、そこは注目しています。当院でも、在宅医療と連携しながら通院されるお子さんの診察にあたることが少なくありません。

Q. 診察で心がけていることは何ですか?

“子どもが主役”と思って診察していますが、同時に、親と子は切っても切れない関係にあると考えています。特にてんかんを診ていると手術という大きな決断が必要な場面もあるので、親御さんにも丁寧に説明をして、受け入れてもらう時間をつくっています。最終的には親子で前を向いて歩いていけるというのがベストな形だと思っていて、それのサポートができるというのが小児科医のやりがいでもありますね。
子どもに対しての説明も確かに難しいですが、それでも先ほどの8歳の男の子のように、きちんと説明すれば意外と理解してくれることが多いです。ご家族全員が分かってくれると信じて説明するのが大事かもしれませんね。

Q. 先生ご自身は小児科医でありながらお母さんでもいらっしゃいますが、互いに活きたことというのはありますか?

子育てをしていることで、正常な子どもの発達がわかるようになりますし、何より世の中のお母さん方への尊敬の念が湧いてきます。私たち小児科医は子どもの病気については詳しくても、子どもの育て方については意外と知らないことが多いです。ミルクや離乳食のあげ方や睡眠時間など、医学知識がなくてもたくさん調べて頑張っている親御さんたちはやっぱりすごいなと思います。だからこそサポートしてあげたいという気持ちもより強くなりますよね。
逆に小児神経をやっていて子どもにとってよかったと思うのは、発達の面で良くも悪くも心配になるところでしょうか。

小林先生や小児科の未来について

Q. 私はまだ学生で、小児科実習を回っていないのですが、どのような点を意識して研修した方がいいかアドバイスはありますか?

まずは、今やられているようにいろいろな先生に話を伺うことが大事だと思います。私自身、小児科医を目指したいと思えるような熱い先生やロールモデルとなるような女性医師など多くの先生方に出会えたことが幸せなことだったと感じていて、おかげで今、あまりキャリアに迷わずにいられています。

もう少し実習的な部分で言えば、外来の様子をしっかり見ておくといいと思います。人の外来を見る機会は、初期研修以降は意外とありません。先生によって外来のスタイルや説明の仕方が違うので、学生の間にたくさん見学して勉強しておくことをおすすめします!
あとはとにかくオープンに来てくれれば、指導する立場としても嬉しいのかなと思います。

Q. 積極的に機会を見つけていくのが大事なんですね。先生の今後の目標は何ですか?

臨床の分野では、てんかん患者さんが将来の制限をされることがないように、薬のコントロール指導や外科との協働ができる医師になりたいと考えています。

また、海外の学会で日本の発信力に課題があることを実感したときに、研究や啓発についても力を入れていきたいと思いました。なので、国内の施設同士をつなげたり、海外とのネットワークを広げたりして、一緒に臨床・研修をできたらいいなという夢はあります。現在はYES-Japan(https://jes-jp.org/YES-Japan.html)という日本てんかん学会の若手支部の副代表をしていて、横のつながりがたくさんあるので、これを全国・全世界と結び付けられれば発信力の向上につながると考えています。

近い将来、海外留学もしたいですね。臨床研究寄りの研究留学になると思いますが、いろいろな知識を持って帰ってきて、日本の医療に還元したいです。

⭐️「子供好き」で小児科医になっていいの?という問いを持つ学生へのメッセージをお願いします。

序盤にもありましたが、私はそのピュアな気持ちだけで小児科医を目指していいと思います。子どもが好きで目の前の子に対して何かしてあげたいと考えられるなら、お子さんや親御さんにとってベストなことが提供できるはずです。

⭐️医師として人生をかけて作りたいものを教えてください。

患者さんだけでなく、自分の人生で出会う人にとってポジティブな影響を与えられる人でありたいですね。子どもであれば「先生が寄り添ってくれたから、病気があってもこんなことに挑戦できたよ」とか、親御さんであれば「先生のおかげで、こういう決断ができました」といった言葉をいただけるような医師になれたらいいなと思います。

Q. 本日のインタビューを通じても、先生からポジティブなエネルギーをたくさんいただけたように感じます。
特に子どもというのはそういった相手の気持ちに対して敏感だと思うのですが、逆に自分の不安な気持ちも伝わってしまうのではという心配もあります。

不安な気持ちが伝わってしまっても意外と大丈夫だと思います。私は親御さんと接するときに、分からないものは分からないとはっきり口に出すようにしています。例えばアメリカだと回診の中に親御さんもいて、たくさん勉強されているので、医師とも何でも伝え合えるような関係性がありました。それを見て以来、私も日常の診療の中で、「何を鑑別にあげているか」「結論は分からないけど、症状が続く場合はどう対処すればいいか」をきちんと言うことを意識しています。結果として、親御さんから「先生そんなこと考えているんですね」という反応をいただいたので、正直な気持ちを伝えるのに躊躇する必要はないと思います。
最後にひとつ、女性の皆さんには『Lean in 女性、仕事、リーダーへの意欲』という本がおすすめです!女性のリーダーシップやキャリアについて書いてあって、私がとても勇気づけられた本なのでぜひ読んでみてください!


編集後記

同じ女性として、臨床・研究・ご家庭とまさに“3足のわらじ”でご活躍されている先生の話を直接伺うことができ、大きな励みになりました。
目の前のことに真摯に向き合いながらも、一歩を踏み出す勇気を持ち、何事にも前向きに挑戦できる人でありたいと思います。
小林揚子先生ありがとうございました!


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